謎のスポーツクリエイター集団「世界ゆるスポーツ協会」を突撃してきた

「ハンドソープボール」や「ベビーバスケ」など、ユニークな新競技=ゆるスポーツを次々と生み出している「世界ゆるスポーツ協会」をご存知ですか? 仕掛け人の取材をしていくうちに、その壮大な目的と、スポーツの持つ可能性が見えてきました。

「ハンドソープボール」「ベビーバスケ」「イモムシラグビー」……。
……え、なんですかそれは? と戸惑われる方が多数かと存じますが、これらは今、じわじわと波に乗っている「ゆるスポーツ」たちです。
例えば、「ハンドソープボール」は手にハンドソープを塗りつけてヌルヌルしながら行うハンドボール。
実際に見ないとイメージが湧かないと思いますので、動画をどうぞ!
▲『【OFFICIAL】ハンドソープボールPV』
https://youtu.be/24saJfODPmU
「ベビーバスケ」はボールを赤ちゃんのように大切に扱わないといけない(ドリブル禁止、強いパスも禁止)バスケットボールで、ユニフォームはエプロン!
「イモムシラグビー」は下半身が固定された「イモムシウェア」を着用し、地面を這いながらラグビーを行います。
他にも「ゾンビサッカー」「こたつホッケー」「100cm走」などなど、ユニーク名称とルールを持った競技がたくさん生まれています。
競技名を聞いただけで思わずクスっと笑ってしまうゆるスポーツは、一体何なんだろう? そして何のために考案されているんだろう? そんな疑問を持って、ゆるスポーツの考案者の一人で、「一般社団法人 世界ゆるスポーツ協会」の理事を務める萩原拓也さんにお話をうかがってきました。

ゆるスポーツって何?

▲「ベビーバスケ」の専用ボールを持つ、世界ゆるスポーツ協会の萩原さん
――ゆるスポーツ協会って一体何をやっているところなんですか?
萩原:簡単に言うと、「ゆるスポーツ」と呼ばれるオリジナルスポーツを開発している団体です。
――協会って競技の運営や統括を行っている機関という印象がありましたが、あくまで「作る」ことが目的なんですね。
萩原:はい、基本はオリジナルスポーツを作ることを重視しています。ゆるスポーツを利用したイベントを運営することももちろん行っていますが、ゆるスポーツを通して色んなことを解決することが大事だと思っているんです。いわば「スポーツのオーダーメイド」ですね。
――解決という言葉があまりピンと来ないのですが、何を解決するんでしょうか?
萩原:僕たちは、ゆるスポーツを通して社会の課題を解決していこうという課題を持って活動しています。例えばお年寄りに元気になってもらったり、家族の絆を深めたり、既存のスポーツの競技普及を行ったり……。自治体や企業のコミュニティ形成にもゆるスポーツは使えます。
――ラインナップを見てただのおもしろスポーツだと思っていました……。その他、協会が目的にしていることはありますか?
萩原:今までスポーツとの接点が0だった人を1にしたいと思っています。たまたま出会った時に「体を動かすのが面白いな」と思ってもらえたらいいなと。その結果、もしかしたら「マラソン大会に出てみよう」とか、「ゆるスポーツのモデルになった競技スポーツを見に行ってみよう」といった行動につながってもらえるとうれしいです。
協会を立ち上げる前に、「バブルサッカー」というノルウェーのスポーツを輸入したことがあります。これは大きな半透明のボールの中に人間がすっぽり入った状態で、同様な人たちを吹っ飛ばしながらサッカーをするスポーツなんですけど、体験会に、あまり普段スポーツをやらない人がたくさん集まってくれたんですよ。
「フットサル大好き」みたいな、いわゆるスポーツ好きな人ではなく、目新しかったり面白いものが好きな文化系の人たちが、わざわざ運動着やシューズを買って来てくれたんです。
――「バブルサッカー」での経験が、ゆるスポーツに生きているということですね。
萩原:「バブルサッカー」での経験でもう一つ、きっかけにつながったことがあります。
バブルの中って、前が曇っててよく見えないんですよ。だから敵がいたらとりあえず思いっきり吹っ飛ばそうとするので、女性相手でも手加減なしなんです。
――あ、それは楽しそう。
萩原:フットサルとかだと、女性にボールが渡ったら遠巻きに見守られて「シュート、シュート!」みたいな雰囲気になるじゃないですか。だから「男女混じってスポーツをやっても、手加減されてつまらなかった。だけどバブルサッカーは同じ目線でやれて楽しかった」っていう女性の意見を聞いて、そこを面白いと思ってくれるのかと驚きました。

▲スピードやパワーを要求されない「ベビーバスケ」は男女で差が付きにくい
――協会の掲げる「社会課題を解決する」という考えに照らし合わせると、「バブルサッカー」はジェンダー問題を解決する一つのアイディアになりえそうですね。
萩原:はい。こういった気付きをきっかけに、2016年の4月に、ゆるスポーツ協会が創設されました。

ゆるスポーツはこうやって生まれる

▲「シーソー玉入れ」を楽しむ高齢者たち
――ゆるスポーツ協会は、現在では70種類以上のスポーツを抱えているそうですね。どうやってスポーツを作っているんですか?
萩原:新しい競技を作るにあたって、いくつかの基準を設けています。
「老若男女誰でもできる」「勝ったら嬉しい、負けても楽しい」「スポーツが得意な人でも負けてしまう」「心地よい疲労感がある」「SNSなどで人目を引くフォトジェニックさがある」「社会問題を解決すること」です。
――いくつか気になるものがありますね。まずは「勝ったら嬉しい、負けても楽しい」。
萩原:これはすごく大事にしていますね。勝つのは楽しいし目指すべきことだけど、負けても楽しかったと思えるような、多様な楽しみ方を提供したいと思っています。
――大切ですね。
萩原:「スポーツが得意な人でも負けてしまう」というルール設計も意識しています。
ゆるスポーツは「運動会で手をつないでゴールする」ということとはちょっと違うんです。それって、みんな楽しそうに見えるけど、運動が得意な人は楽しくないですよね。だから「本気を出したら怒られちゃう」みたいな制約はつけないようにしています。
みんなが本気でやっているけれども笑ってしまう、差がつかない、接戦になる……。そういう観点でルールを考えています。
――ゆるいといっても「楽」とか「適当」ではないと。最後は、先ほど少しお話しいただいた「社会問題を解決すること」。これは具体的にはどのような社会問題を想定しているんですか?
萩原:具体的な競技で紹介しますね。
「トントン」という声を出して紙相撲を動かす「トントンボイス相撲」、天井に投影された的に向かって風船を投げ上げる「打ち上げ花火」、湯のみをマレット(ラケットのようなアレ)にエアホッケーを行う「こたつホッケー」は高齢化社会を想定しています。
老人ホームでも手遊びや童謡といったアクティビティはたくさんありますが、やっていることが子供っぽいと感じる方もいるかもしれない。勝ち負けをつけることで、単なるリハビリよりも能動的に取り組めるようになります。実際に、負けたときのお年寄りは本当に悔しそうにもう一度チャレンジしてくれます。

▲『【公式】トントンボイス相撲PV』
https://youtu.be/GDvcSkQ96Jg
萩原:「イモムシラグビー」と、前が見えないゾンビマスクをかぶって叫び声のするボールを蹴る「ゾンビサッカー」はダイバーシティ(多様性)の入り口です。
垂直跳びで90センチ跳べる人がいれば30センチしか跳べない人もいるし。数学のテストで100点取れる人もいれば50点しか取れない人もいる。障がいを持っている方も同じことだと思うんですよね。足が使えない人は腕の力がものすごく強いかもしれないし、目が見えない人は音だけで楽々とボールの位置を判断できるかもしれない。競技を通して「あの人たちはすごいんだ」って純粋に思えることが、多様性を認められる社会が育つきっかけにつながると考えています。
他にも最新テクノロジーの見本市、地方資源のPR、親子のコミュニケーションツールなど、さまざまな課題を解決できる競技を作り出しています。

▲「ゾンビサッカー」は視界がふさがれたゾンビマスクを着用して行う
――スポーツって本当に色んな可能性を秘めているんだなあと改めて感じさせられます。こういった競技はどうやって生まれるんですか?
萩原:わりと雑談からできているものが多いですよね。最近だと、「中折れ帽のくぼみってラグビーボールが乗りそうだよね」なんて話から「ハットラグビー」というゆるスポーツを考えたりしました。
さらに、協会には「スポーツクリエイター」と呼ばれるメンバーが200人います。普段は映像制作をしたり、デザイナーだったり、さまざまな業種で活躍しているんです。
――200人も! すごいですね。
萩原:ある程度アイディアが溜まると、実験会という形で実際にプレーをして、ルールをブラッシュアップします。
「本気でやっても差がつかない」とか「みんなが本当に楽しいか」ということは重要視していますね。なんとなく楽しかったり、運動神経がいい人が絶対的に有利になるルールはNGです。スポーツが得意な人でも負けちゃうかもしれないようにして、全員が本気だけど思わず笑ってしまうようなルールを目指しています。

▲「ぞうさんオセロ」。地面に近い子どものほうが有利なので、大人が本気でやっても勝敗がつきにくい

“ゆる”の概念を日本から発信する

――運動習慣のあまりない私ですが、ぜひやってみたくなりました。
萩原:実は、5月に「ゆるスポーツ運動会」というイベントを開催します。他にも各地のイベントで実施したりしているので、協会ホームページや公式facebookページを参考に、ぜひ参加してもらいたいです。
あと、イベント以外で重要視していることは、「ゆるスポーツ」の考え方が広がることです。
子どもの頃って、サッカーや鬼ごっこのルールを勝手に変えていたし、オリジナルの遊びを考えていたじゃないですか。大人になるとああいう頭の使い方をする機会がなくなってきますよね。スポーツに限らず、飲み会とか社内のミーティングの仕組みを柔軟に変えてもいいんだ、という考え方を忘れないでほしいです。「ゆるスポーツを見て、新たなインスピレーションが浮かんできた!」。そう言ってもらえるとうれしいですね。
――今後の協会の野望はありますか?
萩原:より「ゆるスポーツ」が広まることもそうだけど、今しがたお話した考え方が広まっていくことが重要かなと思います。今までルール化されていたものだけど、実はもっと柔軟にアレンジしてもいいんじゃないのかな? って。あとは海外にも”ゆる”の概念を伝えていきたいなと思っています。
――なんせ、世界協会ですものね。
萩原:海外の方といろいろやり取りすることがあるんですが、”ゆる”のニュアンスを英語に訳せないんですよね。「ルーズ」とか「イージー」ではないし。僕は「フレキシブル」が近いと解釈しています。
ルールを守ることでなくみんなが楽しめることを第一に考えるのが、ゆるスポーツ。シチュエーションに合わせてルールを変えてもいいというフレキシブルな”YURU”の考え方を、海外にも輸出したいなと。
あとは具体的に、2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピックで日本に訪れる外国人が増えると思います。そこで来た人たちとゆるスポーツをやってみたいと思っています。言葉や文化を越えて楽しめることこそがスポーツのもっともすばらしい点だと思うので、ゆるスポーツが文化交流のきっかけになることを目指したいと思います。
世界ゆるスポーツ協会
http://yurusports.com/
https://www.facebook.com/yurusportslove/

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青木美帆(あおき みほ)

ライター/エディター。バスケットボール専門誌の編集部を経て、バスケット、野球、サッカー、その他スポーツや教育の現場を奔走中。目標は日本のバスケット文化を豊かにすること。ITオンチ代表として、身近な疑問をやさしく丁寧に解決します。⇒twitterfacebook