福岡に「しくみデザイン」という、米・インテル社のコンペで世界一となった会社がある。今年の4月に東京で行われた起業家たちのイベント『SLUSH ASIA(スラッシュアジア)』でも注目を集めた同社は、社員数11名の小さな会社だ。

その会社がどのようにして世界一になったのか、そして福岡ならではのベンチャー事情は。代表取締役の中村俊介さんに話を伺った。

しくみデザインの中村俊介さん

レゴブロックで作られた社章と中村俊介さん

メディアアートではなく、あくまでも「楽しめる仕組み」を提供

「社是が、『みんなが笑顔になれるようなしくみをデザインする』なんです。完成形をこちらで用意するのではなく、あくまでも楽しめる仕組みを用意するだけ。体験をいかに作り出せるか、を考えています。」

そんな思いが「しくみデザイン」という社名にも表れている。

「『しくみ』という日本語は、一対一で表せる英語がないんですよね。システムだったりアーキテクト、デザイン等々文脈でいろいろ変わりますけれど、『この仕組みが』という言葉がなくて。あわよくばグローバル企業になって『しくみ』という言葉が世界で通用するようになるといいなあと思ってます。」

しくみデザインは2005年に設立。当時は大学発ベンチャーブームのまっただ中だった。

「九州芸術工科大学の大学院生だった2003年に神楽(かぐら)という、体を動かすだけで楽器が演奏できるソフトを作ったんです。これがきっかけで、福岡県のヤングベンチャー支援事業として補助金をいただいて、会社を設立しました。」

神楽を作ったきっかけは、練習しなくても楽器を弾いた気持ちになりたい、じゃあ作るか、という気軽なものだったそうだが、テレビでも取り上げられるなど一躍注目を集めた。ただ、会社としてビジネスにするために工夫したのは「新しい楽器」として売り出すこと、ではなかった。

「カメラの前で動いて反応するシステム、として広告やイベントにターゲットを持っていったんです。『見ている人が参加する広告媒体』として、特に何かを持ったりしなくても遊べるゲームが作れます、たまたま通りかかった人にキャッチしやすいです、と。クライアントに合わせてコンテンツをどんどん作っていく形にしたんです。」

特にウケたのが、コンサートやライブでの演出としての利用だった。ライブ中にアーティストが巨大スクリーンに映し出されるときにアーティストの動きにあわせて、火を噴いたり、雷が落ちたり、という演出は非常に注目を集め、一気に知れ渡った。

LinQ4周年ライブ

福岡に拠点を置くアイドルグループ・LinQのライブでもしくみデザインの技術が使われた(写真は4月に行われた4周年ライブより)


「技術で持っているコアな部分はリアルタイムの映像処理なんですね。カメラの映像で顔をなどを検出して、それをリアルタイムで音と映像にしてフィードバックして返すというリ映像処理がベースです。ライブの演出では『この曲でこういう風にする』というのは決めていますけれど、実際にどういう映像として映し出されるか、は、そのアーティストの動きとこちらの操作と両方で成立するようになってます。つまり完成形を見せるのではなく、その場で完成させるという形です。」

リアルタイムの映像処理でアフロヘアに!

動きを感知して雷を落とすことも!

これがその一例。顔を検出して髪型をアフロへアにしたり、動きを検出して雷を落とせる。


これだけのリアルタイム映像処理と聞くと、タワー型のサーバなど処理能力の高い機器が必要と思いきや、実はノートパソコン一台で済んでしまう。

「こういうことばかり10年間やっている会社はウチくらいしかなくて。昔は画面がフルハイビジョンではなかったですし、サイズも16:9ではなく4:3だったり、解像度が600x480が最大、という時代から私たちはやっていますので。画面の解像度が上がるということは処理量も非常に増えるのですが処理能力は落とさないようにしてます。ノウハウがどんどんたまってます。」

神楽を最新の技術で作り直したものが、2013年12月に行われた米・インテル社のコンペ「Intel Perceptual Computing Challenge 2013」で世界一となった「KAGURA」。全世界から2800近くの応募がある中で一位となり、しくみデザインの名前が世界に知れ渡った。ちなみにこのような画像処理、クリエイティブ系というとたいていはMacを思い浮かべるが、実はWindowsでしか動かない。

「パソコンと人との距離を測るのに、インテルが出しているRealSenseというカメラを使っているんです。それが搭載されているのはWindowsしかないんですよね。実はいろんな方に見せると『Mac版が欲しい』とものすごい確率で言われるんです(笑)。なので今、Mac版を開発中です。ちなみにRealSenseが搭載されていないパソコンでも演奏はできますが、距離が測れないのでジェスチャーはできません。」

動きを感知して雷を落とすことも!

これが「KAGURA」。テレビに映し出された楽器を演奏するだけでなく、アイテムを手でつかむことやジェスチャーでリズムのテンポを変えられるなど、自在に操れる。


しくみデザインは映像作品を作っているのではなく、あくまでもそのしくみを用意しているだけなのだと中村さんは語る。

「社名にも入れてますけど、あくまでデザイン寄り、なんですよ。クライアントやユーザがいること前提で考える。いかにみんなが楽しめる空間を作れるか、ということなんですね。よくメディアアートと比較されることがあるのですが、ウチの社員はアートとは誰も思っていないです。自分たちの作りたいものがあって作品として出す、ではなくて、みんながどう楽しめるかを考えて作るので。作品的にできあがったものをどこかに置く、ではなく、みんなが楽しめる仕組みを作る、なんです。」

東京ではなく福岡で働くという「別の選択肢」

しくみデザインは福岡市に拠点を置いているが、前述のコンペで世界一をとってからは、福岡市が同社を積極的に押し出すことが増えたという。

「今年の4月に東京で『SLUSH ASIA』という起業家がメインのイベントがあったのですが、福岡市の高島市長と一緒にステージに立って演奏したんですね。『福岡発で世界一になった会社』として我々を取り上げてくれたのではと思います」

いろんな企業が、そして仕事が東京に集まる中で「別の選択肢がある」ということを中村さんは語る。

「福岡から東京に進出する、とかではなくて世界に対して発信できているというところが大きいのかなと。福岡に限りませんが、『東京対地方都市』という関係がどうしてもできるじゃないですか。でも、地方都市がどんなに頑張っても、東京と同じ土俵で争っても勝ち目ないと思うんですよ。そうではなくて別のポジショニングをするべきだ、と。」

中村さんは語る

ただ、クリエイターが多く集まっている理由の一つとしては、土壌としては九州芸術工科大学の存在が大きかったのではと語る。

「設立当時は芸術工学をやり始めたり先進的なことをやっていて、変な人が集まりだしたんですよね。変わったクリエイターが多いという土壌はあったんです。ただ、今までは仕事がなかったので東京に行くしかなかったのですが、福岡にいてもできるようになっている、というのはありますね。地方から来てそのまま残っている人も多いです。僕も元々名古屋の出身なんですよ。大学院に入るときに初めて九州に来たほどで(笑)。」

これだけ多くのクリエイターが集まる中で、福岡ならではのクリエイター文化はどのようなものか、気質等文化的な側面として何か影響を受けているのでは、と聞くと、それはあまりないという。

「福岡だとかそういうのを気にしない人が残っているんじゃないかなと。どこでもいいんだけれどたまたま福岡、とか、わざわざ東京に行くこともないし、みたいな。福岡の良さはざっくり言えば全て住環境、という言葉になってしまうのですが、物価の安さ、気候、海も山も温泉もすぐ行けるちょうどいいサイズ、かといって田舎というほど物がないこともなく一通りは揃っていますからね。」

では福岡でベンチャー企業が成立する条件は何か。

「福岡に仕事はないんですよ。福岡で全部完結する仕事をしている人は大きくなりにくいというか。なので福岡を拠点にはしつつもビジネスのフィールドは福岡じゃない、という会社はうまくいっている気がします。お金のある大企業はたいてい本社は東京なので、ベンチャーにお金を出せる環境ではないんです。なので福岡にいるけれど東京でサービスを出したり、WEBや映像等、場所が関係ないサービスをやっていたり。そういうことをしている人たちが結果的に福岡に残っていて頑張っている、みたいな状態なのかなと思いますね。」

確かに製造など物を売り出す企業であれば輸送費がかかり、その分コストが上がって価格面で不利になるが、映像をはじめとするクリエイティブ関連やデータであれば距離は関係ない。しかも福岡は東京との距離がより遠い分、福岡でクリエイティブな企業が多く登場しやすかったのかもしれない。

最後に中村さんに今後の夢を伺った。

「10年ずっとやってきたことは、作ったものでみんなに遊んでもらう、ということだったのですが、それだけではなくて、どうやったらみんなが作る側に回れるかと。作るのって基本的に楽しいですよね。小さい子も何か作るのは好きですよね。でもどこかの段階で『特殊な能力がある人だけが作る』、という状況になっているのがもったいないなあと。誰でも本当はそういう楽しさを持っているはずなので、現在の『楽しむしくみを作るところ』、からもう一つ下のしくみ、もっとコアな部分にいきたいなと思っていて。」

そんな思いから3年前に生まれたのがiPadのアプリ「paintone」。絵が描けて自分の声が入れられて、できたものがそのまま画面に出せるこのアプリは、2~3才で使えてしまう、誰でも簡単にコンテンツを生成できるがコンセプトだ。

「paintone」とサイネージを組み合わせたケース

これが「paintone」とサイネージを組み合わせたケース。iPadで書いた黄色のイラスト(画面中央)をそのまま画面に登場させてアイコンとして遊べる


「作りたくなるというのを用意して、それができるところまでツールとして用意してあげて、僕らが作るだけではなくてみんな誰でも作れるような世の中だったら楽しいんじゃないかなと思っていて。僕らが作っているようなものをみんなが作れるように。

夢で言うと、KAGURAを使ったプロのパフォーマーが出てきて欲しいなと。"カグラー"とか(笑)。ツールとして見ている人が『おおおっ』となるような演奏をできる人が出てきて欲しいなと。」

最近は、通行人の属性にあわせて表示を変えるデジタルサイネージも注目を集めている。しくみデザインの技術が広告やイベントで今後ますます脚光を集めそうだ。

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しくみデザイン
http://www.shikumi.co.jp/

paintone」(App Storeにリンクします)
KAGURA

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編集部有本

元エンジョイ!マガジン編集長(2014年10月時点)。かつてBIGLOBE MUSICを担当していた経験を活かし、よりエンジョイ!でウェッサイ!!なマガジンを目指していきます。

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