ダンス文化の変化と「生き方」(ダンサー・SO)【福岡にリンク】

中学校で義務教育化され、今では多くの人にとって身近になったダンス。まだ日本にダンス文化が根付く前から第一線で活動を続け、今では振り付け師として活躍するSOさん。彼の振り付けにおける哲学とは。

福岡を拠点に活躍するクリエイターたちを通して、福岡の文化、そして福岡で働くということにスポットを当てる福岡支局企画。今回登場するのはダンサーで振り付け師のSOさん。日本のダンスシーンに大きく影響を与えた福岡のルーツ、そして振り付けを手がけているアイドルグループにおける哲学をお聞きしました。

―― SOさんは2才からずっと福岡だそうですが、ダンスに出会ったきっかけって何だったんですか?
17才の時に姉がジャズダンスを習い始めて、僕が今所属しているBE BOP CREWの方々を知って。そのショーをディスコで見て衝撃を受けて。実は中学、高校とバンドをやっていたんです。当時流行っていた「めんたいロック」のコピーをやってました。
―― ちなみにパートは…
ドラムです。
―― 体格的になんとなくそんな気がしました(笑)。
当時からリズム重視です(笑)。で、ダンスに目覚めて。一番はディスコでのナンパ目的でしたね(笑)。「これをやったら女の子にモテる」と若い人なら誰しもが思うことを、僕らは既に武器にしてました。プロダンスチームに入ったのは21才になってからです。
福岡ってダンスの系統が一つなんですよ。BE BOP CREWのオリジナルのリーダーにYoshibowという人がいるのですが、あるとき彼を残してみんなやめてインペリアルJB’sができて、そして僕らがやめて、若者だけのデ・ラ・ダンスというグループを作って、等々いろいろ分かれていって8つくらいグループがあって。でもグループが多いから全く仕事がないんですよ。だったら東京行ってみようと。「自分たちがどんなものなのか」というのを確かめたいのもあって。1DKのアパートに男6人で暮らして。
でも最初は食えるはずもなく。東京行ったからこそなのですが、ダウンタウンの「ダンスダンスダンス」という番組があって出させてもらったり、映画にダンサー役で出させてもらったりとか、仕事はあったのですが、追われる生活というか。やがて「ダンスダンスダンス」に出る人たちは1週間に二本撮りでその中に3分のショータイムを毎回考えないといけなくて、ダンスをこういう形で仕事にするのってイヤだな思って。
―― 魅せる方ではなく作る方に忙殺されちゃうというか。
それもありますが、その人たちがダンスを作るのに僕たちにネタをくれないか、と。人の手を借りてまで、という状況になっていたんですね。そうなるのがイヤだったんですね。東京で仕事するのって割り切りも必要だなと。若かったから「自分たちが思ったダンスしかやりたくない」という思いもあって、結局2年で福岡に帰ってきました。それからずっとBE BOP CREWでやってます。
―― 指導歴としては?
最初はAMAZONSの振り付けの助手です。その後沖縄アクターズスクールのGWINKOというアーティストを担当して。あと東京に行ったときのつながりで2000年からDA PUMPのバックダンサーと振り付けを4年間担当しました。
―― ダンサー、指導者、二つの顔をお持ちですが、活動の比率はどれくらいですか?
今はほとんどが指導ですね。人によりますが、昔はストリートダンス教室やスタジオがなかったので、誰にも教える機会がなくて自分たちの練習がほとんどで、月に一~二回踊るという感じだったのですが、ダンス教室ができてきて、毎週のレッスンで定期的なお金が入りますし、自然とそちらがメインになりますよね。
―― SOさんは「FEEL STUDIO」というスタジオを主宰されてますが、設立はいつ頃だったのですか?
2001年です。その頃沖縄アクターズスクールの福岡校で教えていたのですが、それが撤退になってしまって、生徒をどうするかというときに「じゃあオレが作ろう」と。
―― 長年ダンスに携わっていた身として、ダンス文化ってどう変化してきたと思いますか?
今までは、カッコイイ言い方をすると「生き方」だったんですよね。ダンサーとしてバイトしながら続ける中、いろいろな事情でやめていく人もいるわけですが、「お金もそんなにないけれどオレは好きだからずーっとやり続けたい」という人が残っていったんですよね。生き方として。「いいよ貧乏でも」と。僕たちは人前で踊ってなんぼなので。
それが、ダンス教室ができるようになってきて、そしてミュージックシーンの変化もあるのですが、だんだんバックダンサーにあこがれるという人が出てきたんです。そして、だんだんダンスをやる人が低年齢化していって、本当に今は習い事中心のダンスというか。現実的にはダンスのレベルはものすごく上がって技術も発展したのですが、学生は受験とかで一度やめてしまう。つまり習い事なんですよね。
―― 教室に通う人は増えているけれど専業としようと思っている人は少ないと。
実際にダンスをやる子も増え、結果インストラクターとして食える人も増えたのですが、そこにとどまっているというか。インストラクターの人たちもバックダンサーのオーディション受けたり。僕もバックダンサーをやってきたので、自分だったらつけない振り付けを自分で踊ってみて「こういうのもあるんだ」と勉強にはなりますし、お金にもなるし経験にもなるし、勧めてはいるのですが、やっぱりその先、じゃないですか。その先どう踊るのか、とか、その経験を活かしてどうするのか。なのに「バックダンサーが目標」と言われると…僕らが生き方としてきたものが。
みんな自分が踊りたい、目立ちたいというのはあるのですが、稼げるということになると…。とはいえ昔と比べてバックダンサーの収入は少ないし時間も拘束されるのですが。
―― 音楽の変化なんですかね。大人数で見せるみたいなのに切り替わっていて、バックダンサーに憧れる人も増えているのかなと。
SPEEDで盛り上がって、いったん離れたけれどK-POPでまた戻ったという感じですね。ダンス業界は今でも、呼ばれてその日のうちにギャラを支払われるとっぱらいの世界ですし。あとダンスは音楽と違って著作権の問題がないので振りはいくらでもマネできますし。音楽は著作権が守られているので印税がありますが、ダンスはギャラ一発ですからね。
―― 不安定な職業という側面があるわけですね。福岡は「どんたく」「山笠」など祭りも盛んな地域ですが、文化としてダンスに与えた影響ってありますか?
祭りというよりは芸能一般かなと。バンドもたくさん出てますし。ダンスも土壌はあるんだと思います。というのは、みんな目立ちたいんです。どんたくも阿波踊りみたいなチャキチャキした動きではないですし、目立ちたがる人たちのツールというか。あと、ダンスにしても音楽にしても協力してくれる人がいて、長くやりやすい土壌だと思います。
―― SOさんが振り付けを一貫して手がけられているケースとしては同じ地元福岡のアイドルグループ・LinQがあります。
ベストホールの公演に関しては自分たちで考えて自分たちでフォーメーション組んで、と言っています。あの子たちが割り振りしてますが、「変えていいけれど言ってね」というのはありますね。
―― 先日LinQの皆さんにインタビューしたときに、振りがメンバーによってバラバラになっているので、4月の4周年ライブにあわせてみんなで合わせ直したと言ってました。
そこで見えてきたものを修正するのが僕ですね。「ここでこういう振りしているのは、勝手に変えたのか、それても意識せずにそうなってしまったのか」というのは、もう一度一人ずつ聞いて、やらせてみないとわからないなと。
振りがメンバーによって変わるのは、やっていて楽しいからついつい忘れてしまうというところもあると思うのですが、でも「これは何?」というのもあるわけです。メンバーに言うのは、「先生からはこう習ったけれど私はこうやりたい、私はこの曲がこうだと思うから」というのがあるのなら変えなさい、と。でも、自分の中で勢いをつけた結果そうなっているのならやるなと。基本があって崩すならいいけれど、はじめから崩すのはダメと。できないから逃げる、ごまかすという部分もあるので。

デビュー時から振り付けを手がけているLinQ(写真は今年4月に行われた4周年ライブより)

―― 振り付け師としてSOさんにとっての哲学って何ですか?
「共通化」です。LinQの曲の中で出てくる「花」「フラワー」「桜」といった花に関する言葉については手の振りを共通化しているんですよ。共通のワードがあったときに別の曲と同じ振りを使うことでファンとしては「あ、これ、あの曲のだ」と気づいてもらってコピーしやすくなるというか。
例えば手話ってある程度動きが共通じゃないですか。同じようにLinQの特徴の動き、「LinQ用語」として、動きの中で表現ができるというか。必ず共通化させようとしているんですよ。
―― それはファンの人に楽しんでもらったり曲と曲を結びつけるためなんですか?
それが何よりグループの色、になるんですよね。「この動きってLinQだよね」という。でも最近知ったのですが、メンバーからしたら「ここ、あの曲と同じだよね。SOさん手を抜いているのかな」と思われている部分もあるようで(苦笑)。
―― LinQはアドリブで振りを変えたり、そういうメンバーの工夫が楽しいなと思っています。ライブで曲が常に変化したり進化したり。
僕は逆のことも言っているんです。「定番をどれだけやりつづけるか」と。ベストホールでの定期公演と、SuperLive、他所でのイベント、他所でのライブというのは全く違うものにしたいので。
例えば定番曲の「ハジメマシテ」も、ハチャメチャにするとかもっとかわいくするとか、やり方を変えることでまた違う「ハジメマシテ」になるんですよ。
―― ライブを変えるのなら、曲ではなく曲の中身を変えるやり方があるだろう、と。
メンバーも違えばやる楽曲が一緒でも中身は違うはずなんですよ。同じ歌詞でも歌うメンバーによって盛り上げ方が違うとか持っていく雰囲気が違うと違う楽曲になるんですよ。本人たちに何回かは伝えたのですが、響いていないというか。自信がないんですよね。
―― SOさんがLinQに重ねている部分ってなんですか?
LinQとしてはマリンメッセを目指すとか活動していくところの目標は立てているじゃないですか。僕の中では先日出た「V to ROAD」(※)という曲を初めてメンバーの大庭彩歌に振り付けを任せてみたのもそうなのですが、作詞だったり作曲、演奏、振り付けを自分たちでできるアイドルグループになってほしいなと。アイドルなんだけれどアーティストとしての活動もできる、目覚めて欲しいというのかあります。
メンバーは今の既存のアイドルを目指しているじゃないですか。例えばAKB48とかに憧れたり。でも、既存のアイドルになってはいけないわけです。なぜなら既にいるわけですから。アーティストは息も長いし、自分で創造できる人たちだと思うんですね。そこを目指して欲しいというのもありますし。
例えばLinQのメンバーはダンス自体をLinQで始めたので、つまり僕からしか習っていないんですよね。最近メンバーの杉本ゆさが僕のスタジオに来て他の人に習ったりしているのですが、全然違うと驚いてました。そういうことを徐々に始めて欲しいな、そしてアーティストになって欲しいなと思います。
※…4月にリリースされたLinQのシングル「ハレハレ☆パレード」の全国拡大盤収録曲

学生時代はめんたいロックのカバーバンドをやっていたSOさん。「カバーをしたこともある『レモンティー』をLinQで振り付けができるなんてすごいなと思いました。なのでメンバーに『もうちょっとちゃんと踊って』と思ってしまうこともあるんです。恥をかかせるなと。」

福岡ダンススタジオ:FEEL STUDIO
http://www.feelstudio.jp/
SOさんプロフィール
1966年4月13日生まれ。ダンスチーム「BE BOP CREW」の二代目リーダーで、ダンサー・講師・振り付け・MC・役者・イベンター等をマルチにこなす。福岡にあるダンススクール、FEEL STUDIOの代表も務め、後輩の指導にあたっている。

GQ2015『GABBY』福岡公演にSOさん出演決定!!

福岡県出身、現在2代目BE-BOP CREWリーダーであるSO[BE-BOP CREW]さんの、GQ2015『GABBY』福岡公演への出演が決定しました!
福岡公演のみの出演となりますので、ぜひご期待ください!!
日程:2015年6月19日(金)19:00 / 6月20日(土)14:00
■会場:キャナルシティ劇場 http://www.canalcitygekijo.com/
■住所:福岡県福岡市博多区住吉1-2-1
■主催:ニッポン放送、CSB International、ROUND ABOUT、FISEMAN CREATIVE
福岡公演 チケット情報
チケット料金:10,000円  ※全席指定/税込
※未就学児童の入場はご遠慮ください。
GQ2015『GABBY』
http://www.gq-dance.com/

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エンジョイ!マガジン編集部