原稿が終わるまで帰れない!噂の「原稿執筆カフェ」を体験

集中して書くための数時間を確保したい! そんな願いをかなえるためのコンセプトカフェが、東京・JR高円寺駅の近くに誕生。原稿執筆目的以外の人は入れない「原稿執筆カフェ」を体験してきました。

世の中には小説を書きたい、シナリオを書きたい、論文を書きたい、ブログ記事を書きたい、企画書をまとめたい、マンガのネームを書きたい、翻訳したいなど、いろいろな執筆需要があります。ところが、家や喫茶店で書こうと思うと、すぐに雑用、雑音、誘惑などの障害が立ちはだかるもの。

「数時間の集中できる時間を提供しよう」、そんなコンセプトから生まれたのが、「原稿執筆カフェ」です。動画撮影スタジオの空き時間を原稿執筆のためのカフェとして提供したところ、エッジの立ったコンセプトに開店前から取材依頼が殺到。22年4月7日の開店以来、順調に営業が続いています。

筆者は今回で3回目の利用となります。

原稿執筆カフェとは

「原稿執筆カフェ」はJR高円寺駅から徒歩5分。環状七号線に面した交差点の角ビルの一階にあります。

▲「原稿執筆カフェ」の外観。窓には6つのルールが書かれた張り紙がある

動画スタジオとしても稼働しているため、22年7月現在、「原稿執筆カフェ」としてオープンしているのは週のうち、月、火、水の3日間です。時間帯は基本的に13時から19時まで。深夜まで営業する日もあります。

座席はぜんぶで9席。キッチンと向かい合うカウンター席が1席、窓側のカウンター席が4席、テーブルが2席。店内は会話禁止&禁煙ですが、休憩用のテラス席は喫煙可、電話や打ち合わせなどのお喋りも可となっています。

▲窓に面したカウンター席。隣とは黒いアクリル板で仕切られている

ひとつひとつの席のスペースはそれほど広くはありませんが、ノートパソコンと飲み物を置くと、ちょうどいいくらい。足下には荷物入れが用意されています。利用者にはノートパソコン用の冷却台が無料で貸し出されます。

▲足下には荷物入れが、板には電源が用意されている

電源は通常のコンセントのほか、USBポートもあります。重い電源アダプタをもってくる必要はありません。
無線LANはもちろん常備。光回線1回線分を10人程度でシェアするので、通常の無料無線LANサービスよりも快適にネットを利用できます。

▲カウンターに用意された飲み物類

店には珈琲や紅茶などの飲み物が用意されていますが、持ち込みもOK。道の向かい側にはローソンがあるので、自分の好きな飲料や軽食などを購入して持ち込むことができます。

入店して目標記入カードを提出する

入店すると、店長さんが出迎えてくれます。
そのときに手渡されるのが目標記入カード。

▲原稿を書く前に「目標記入カード」を提出する

最初に4つの利用規約が書かれています。

 

□原稿執筆を目的にした利用に限ります
□目標を達成するまで精算できません
□閉店時間を過ぎると大幅に料金があがります
□精算に現金は使えません

 

ちょっと厳しいようですが、これはお店と我々客とのお約束。高い集中力を保つために役立ちます。

各項目にチェックを入れて簡単なアンケートに答えると、いよいよ「今日の作業目標」があります。ここには「2時間で2000文字の原稿を書く」「3時間で短編小説を20枚書く」など、なるべく具体的な目標を書きます。

進捗チェックは「マイルド」「ノーマル」「ハード」の三種類。選んだレベルに応じて、一定時間ごとに店長が進捗チェックの声がけをしてくれるのです。まるでカンヅメ中の作家と編集者のようですね。

原稿を執筆してみる

「原稿執筆カフェ」にはBGMがありません。開店当初はジャズを流していたそうですが、お客さんからの要望で現在は静寂な空間作りに徹しており、店内にはカタカタとキーボードを叩く音だけが響きます。ノートや原稿用紙で作業をする方もいるそうです。

「原稿執筆をする人だけ」という入店規制があるため、店内にいるのはいわば全員が同志。会話はしませんが、仲間意識が執筆意欲を刺激してくれます。

席と席の間はブラックのアクリル板で区切られているので、隣の人に作業を覗かれる心配はありません。また、換気のためドアと窓はすべて開放しているため、マスク着用の義務がないのも集中力を高めるのに役立ちます。

▲店の外にある休憩用テラス席。喫煙やおしゃべりも可

飲み物とコンビニで買ってきたパンを出して、ノートパソコンを冷却台にセットします。これで執筆準備は完了。冷却台には角度がついているので、キーボードがとても打ちやすく感じます。
文字を入力していると、時間がたつのはあっという間。ときどき(ノーマルモードなら1時間、ハードモードなら30分に一度)、店長がやってきて「どうですか」と声をかけ、お菓子を配ってくれます。

ふだん原稿を書いているとき、誰かに気にかけてもらうという体験はまずないので、これはうれしい心遣いです。お客さんの中にはあまり声をかけられたくない人もいれば、厳しいほうがいいという人もおり、店側では気を遣うポイントになっています。原稿内容まではチェックされません。

川井さんのお話

「話題先行だったので、取材陣と興味をもったお客様がわっと押し寄せたあと、客足が止まると予想していたんです。そのときは静かにフェードアウトしようと思っていました」と語る川井拓也さん。

▲「原稿執筆カフェ」マネージャーの川井拓也さん

「いままで400人ほどの方にご利用いただいているのですが、結果的にはリピート率が高かった。それがいまお店を続けている理由です」

やはり確実な需要があったのですね。

「図書館の自習室のような商業スペースが意外となかったんですね。ふつうのお店は、長時間居座ると回転率が悪くなってあまりよく思われない。うちは採算ベースでは考えていないので、その点は居心地がいいと思います」

たしかにファミレスや喫茶店では、なかなか原稿が仕上がるまで長居することはできません。

もう一点、気になることがあったので聞いてみました。
「トイレがユニークですよね」

「はい。店内は静寂なので、トイレの音が気になるという人も。そこで、トイレはラジオを流しっぱなしにすることにしました」

壁に作られた棚には、古いガジェットがいっぱい。これは川井さんが趣味で集めているもので、噂が噂を呼び、いまでは寄付してくれる人がたくさんいるのだとか。筆者も昔使っていた古いガジェットを見つけ、ちょっと心和みました。

▲トイレの中にはラジオが流れ、棚には古いガジェットがいっぱい

お客さんは、近郊の人がほとんどかと思えば意外とそうではなく、千葉県や神奈川県からいらっしゃる方もいるとのこと。年齢層も高校生から高齢者まで幅広く、「執筆」作業が普遍的なものであることを伺わせます。

いざ精算

原稿を書き終わると、完成した旨を告げて精算を行います。現金は利用できないので、キャッシュレスサービスのみ。そのかわり、交通系、PayPay、LINE Pay、d払い、iD、アップルペイ、各種クレジットカードなど、幅広いサービスに対応しています。
予約のお客様は予約した時間分を、予約なしで来店したお客様は時間分の料金を支払います。時間は30分単位。22年7月時点での料金は、30分で240円です。

「原稿執筆カフェ」はあまり大きなスペースではないので、飛び込みでの入店はお勧めしません。確実に利用するためには、Webから予約しましょう。カウンター席か窓際カウンター席かを選択し、時間を2時間~6時間のいずれかに設定します。早く書き上がっても予約分の料金は支払う必要があるため、適切な時間設定を行いましょう。

「原稿を書き終わるまで帰れないのはちょっと不安」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、原稿の仕上がり具合はあくまで自己申告制なのでご安心を。内容をチェックされるような厳密なものではありません。自分でノルマを達成したと思ったら、そこまででOKです。
それでも、もうすこし頑張りたいと思ったときには時間を延長することになります。席が空いてなかった場合はどうなるのでしょう。

川井さんに伺うと、
「予約が入っている場合は別の席に移っていただくことになりますが、たいていはスムーズに延長できています」
とのことでした。なお、19時の閉店時間後まで時間を延長する場合は料金が急激に割高となりますが、目標時間内に書き終える方の方が多いそうなので、あまり心配する必要はないでしょう。

2時間コースを体験しましたが、あっという間でした。次回は4時間コースを選択してじっくり書いてみようと思います。

今回の体験でとくに印象に残ったのは、無線LANサービスの快適さです。ふだん外で書いているときには「もうちょっとネットが速かったらなあ」と感じることが多いだけに、「原稿執筆カフェ」は理想的な執筆環境に思えました。自宅でも、執筆環境を整えるためには、まず光回線の導入など、ネット周りの環境を整備したいものです。

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深川岳志

1960年、兵庫県生まれ。大学時代はSF大会(Daicon3、4)の運営にのめり込む。卒業後、編プロを経てITライターに。ショートショートを書くのが趣味。note:https://note.com/fukagawa